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「訪問看護で起業してみたい」
「でも、スタッフ集めやオンコール、経営が不安で一歩踏み出せない…」
そんな医療職の方に向けて、コロナ禍に訪問看護ステーションを立ち上げ、現在も管理者として現場と経営の両方を見ている方にお話をうかがいました。
起業のきっかけ、人材確保の苦労、高リスク利用者への対応、ケアマネ連携、借入や再起のリアルまで、誰も語らない経営の裏側に踏み込んだ内容です。
記事のハイライト(3つの現実)
1. 起業の動機: コロナ禍で「病院にいても守られない」と痛感し、雇われる側から事業主への道へ。
2. 経営の難しさ: 人材確保、オンコール対応、高リスク利用者対応など、数字(収益)とスタッフ保護の板挟みになる場面が日常。
3. 成長の対価: 訪問看護での起業は「圧倒的に成長できる」が、その成長の裏には「餌が取れなければ生きていけない」という厳しい現実がある。
1. 病院という組織への不信感から生まれた起業のきっかけ
コロナ禍で見えた「医療従事者が守られない現実」
看護師として個人事業主の経験を経て、起業への道筋が見えてきた一方で、病院や療養ホテルの現場でショックだったのは、医療者が感染リスクを負いながら働いているのに、制度的にも組織的にも守られている実感が薄かったことです。

「病院組織も、社会全体も、医療従事者を守り切れていない」
そう判断したことが、退職と訪問看護ステーション起業の大きな決め手になりました。
2. 開設直後の厳しい現実:人材確保と稼働のシビアさ
「3人そろわないと始まらない」訪問看護のスタートライン
ステーション開設には一定の人員(おおむね3人程度)が必要ですが、そこで終わりではありません。コロナ禍の初期という特殊な状況下では、「訪問に行きたい人/怖くて行きたくない人」でスタッフの感覚が分かれ、利用者はいるのに稼働させられる人が限られるという状況に直面しました。
代表者である自分がひたすら現場に出て、ほぼワンオペで回す日々が続いたと振り返ります。
人材確保が思うように進まない場合、医療・介護職に特化した求人サービスを活用して募集経路を広げるケースも見られます。
例えば「医療キャリアナビ」のように訪問看護の採用にも対応したサービスが挙げられます。
【経営の現実】稼働が落ちると、売上に直結するシビアさ
訪問看護は、患者・家族との距離が近い分、やりがいも大きい一方で、ビジネスとしての不安定さも抱えています。

「稼働(訪問件数)が落ちると、すぐに売上に跳ね返る」 キャンセルや入院・死亡などで、あっという間に収入が変動する。このシビアさに耐えられる人は多くない、というのが経営者としての肌感覚です。
3. 高リスク利用者/クレーム対応と「スタッフ保護」優先の経営判断
「とにかく利益」の現場で見た、スタッフが消耗する実態
過去に関わった一部事業所の例として、「絶対に来るな」と言われるような高リスク利用者や、クレームが多いことで有名な家族の家でも、利益のために引き受けざるを得ない状況があったそうです。
現場の看護師にとって、これは心身ともに消耗が激しく、「続けたい」とは思えない環境でした。
今の方針:「スタッフを守る」ために契約しない選択も取る
現在、インタビュアーの事業所が取っている方針は明確です。
- スタッフの安全とメンタルを最優先する
- リスクが高すぎる利用者・家族に対しては、契約をお断りすることもいとわない
数字責任や継続のプレッシャーを理解したうえで、「スタッフが続けられること」を最優先する距離感を大切にしているのが印象的でした。
4. オンコール体制:ママナースと管理者のリアル
「オンコール取りたくない」スタッフと、現実の落としどころ
オンコールは訪問看護ステーションの運営で避けて通れません。家庭の事情で夜間対応が難しいスタッフもいる中で、現状は管理者が多くのオンコールを引き受け、日中の状態調整で重症者を溜めないよう工夫し、夜間コールの頻度を下げる運用をしています。
採用段階で「オンコールのルール」を明文化しておく
特に強調されていたのが、採用段階で「オンコールのルール」を明確に共有することです。
- 何回/月のオンコールを期待しているのか
- 免除や軽減の条件はあるのか
- 実際の呼び出し頻度はどれくらいか
こうした情報を最初から共有し、「聞いていた話と違う」を防ぐことが、人材定着のカギになると話していました。
5. 採用・面接で見るポイント:他責度と自己認識
「他責傾向」が強くないかを見る
採用で特に意識しているのは、「どれくらい他責か」です。すべてを環境や他人のせいにしていないか、自分の行動や選択として振り返れるかを見ています。ただし、単純に「他責だからNG」ではなく、「他責でいる自分を自覚できるか」が重要だとも話していました。

一度立ち止まり、自分を客観的に振り返れる人は、価値観のすり合わせがしやすく、一緒に働きやすい。
6. 訪問看護起業のメリットと「向いている人・向かない人」
最大のメリットは「自分が圧倒的に成長せざるを得ない」こと
訪問看護ステーションの起業・運営は、収支の数字、採用・教育・人事、利用者・家族・医師・ケアマネとの交渉など、すべてが「管理者の自分ごと」になります。嫌でも視野が広がり、スキルが鍛えられることが最大のメリットです。
印象的だった例え:「給料をもらうのは動物園で餌をもらうようなもの」
一方で、「なんとなく給料が高そうだから」といった動機での起業は厳しいと話します。

雇われる側は「動物園で餌をもらうようなもの」に近い。 起業は「ジャングル」に近い。餌が取れなければ生きていけないし、取れ続ける保証もない。それでも挑戦したいかどうかが、分かれ目になる。
7. 借入・廃業・再起――お金の現実と腹の括り方
4500万の返済経験が語る「再起のリアル」
訪問看護ステーションの立ち上げでは、借入が前提となるケースも多くあります。

私は、実は離婚をきっかけに約4500万円を返済した経験があります。

「やりたいなら、2000万くらい借金してやってみればいい」 「もし潰しても、また働いて返せばいい」
この発言は、すべての人に当てはまる話ではありませんが、「最悪こうなっても再起できるか?」を考えておくことは、起業前の大きなポイントと言えそうです。
8. 医師よりもケアマネ連携が重要である理由
診療連携というと医師をイメージしがちですが、経営の観点からは「医師よりもケアマネとの連携」が重要と感じているそうです。
理由としては、紹介元としてのケアマネの役割が非常に大きいこと、そして「誰のどんな価値観と合うか」を見極めることが大事だからです。

「こちらの看護像やサービス方針を理解してくれるか」「双方向に交渉・相談ができるか」 固定観念を持たず、『この人なら一緒に地域を支えられる』と思えるケアマネとつながることが重要だと強調していました。
9. 地方・離島医療の現実と、訪問看護が担う意味
採算のための「いらないと感じる処置」
認定看護師として全国の現場を見てきた経験から、認知症高齢者の増加と、配置基準を満たせない現場の構造的な人手不足を痛感しています。

特に地方の医療機関では、「点数のために、都市部ならハネられるような処置を行っている」「これは絶対にいらない処置だよなと思いつつも、経営のためにやらざるを得ない」という、採算と医療倫理の葛藤も学びました。
このような現状の中で、訪問看護ステーションの存在が、地域の在宅医療・介護の最後の砦の一つになりうることを、改めて感じさせられます。
まとめ:訪問看護で起業を考えているあなたへ
今回のインタビューから見えてきたのは、訪問看護の起業は、自分を圧倒的に成長させるチャンスである一方、スタッフ・利用者・地域・お金・制度のすべての板挟みになる、かなりハードな選択でもあるという現実でした。
もしあなたが、
- 「病院にいるだけでは見えない景色を見たい」
- 「自分の価値観に合う看護を、地域で実現してみたい」 と感じているなら、ぜひ次の3つを紙に書き出してみてください。
- なぜ訪問看護で起業したいのか?(コアな動機)
- どんなスタッフと、どんなケアを提供したいのか?(理想の事業所像)
- 最悪のケースでも「再起できる」と思えるラインはどこか?(リスク許容度)
そのうえで、実際に訪問看護ステーションを起業・運営している人の話を、今回のように具体的に聞いていくことが、いちばんの学びになるはずです。
訪問看護で起業を考えているあなたへ
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