※本記事にはPRを含みます

※本記事は2025年10月9日開催のセミナーのインタビューをもとに再構成したものであり、診療報酬の点数・条件は地域・時期によって異なります。最新情報は厚生労働省の公式情報をご確認ください。
▶︎ 【制度の確認はこちら】厚生労働省|診療報酬改定に関する公式情報
▶︎【研修要件はこちら】 日本排尿機能学会|学術大会・セミナー
診療報酬改定による「億単位の減収」に揺れた回復期リハ病院。
経営再建の鍵として注目された「排尿自立支援加算」は、
現場では“面倒くさい加算”と呼ばれながらも、離脱率76%という成果を生み出しました。
本記事では、外来看護師が挑んだ排尿ケアチームの立ち上げと現場のリアルを追います。




※本記事は2025年10月9日開催のセミナーインタビューをもとに再構成したものです。
現場での排尿ケアの実践に関心がある方は、看護師ぴぃ子さんのブログ
👉 『困った【夜間頻尿】病院に行く前にできること』 もぜひご覧ください。
セルフケアとチーム医療、両方の視点から“オシッコの悩み”をやさしく学べます。
「排尿自立支援加算って、本当に儲かるの?」
そう聞かれて即答できる医療者は多くありません。
回復期リハビリテーション病院では、診療報酬改定による“億単位の減収”が現実となり、経営を救う切り札として排尿ケアチームが立ち上がりました。
しかし、現場では「面倒くさい加算」と呼ばれ、病棟からの反発、導尿スケジュールのすり合わせ、そしてチーム間の温度差…。
中には**「そんなもん、いらん。リハが進めばバルンなんて抜けるんや」**と全く協力しない医師もいました。
それでも挑戦を続けた結果、バルーン離脱率76%達成・抗生物質費激減という成果を掴んだのです。
本記事では、病院経営と現場のリアルの狭間で奮闘した外来看護師の記録から、**排尿自立支援加算の“本当の価値”**を紐解きます。
序章:加算取得のリアルな動機 — 「億の減収」と外来看護師へのミッション
「最初は、まったく興味がなかったんです。
でも“病院の未来”を守るために、やらざるを得なかった。」
診療報酬改定による「億単位の減収」を前に、経営陣が目をつけたのが排尿自立支援加算(200点/回)。
外来看護師として比較的時間に余裕があったAさんに声がかかりました。
「うちの病院の柱を守る」──というよりも、
「少しでもプラスになれば…」という現実的な期待から始まった挑戦でした。
この加算には、尿路感染症による入院期間延長・抗生物質費増大という構造的課題を解決する狙いがありました。
しかし、実際に動き出してみると、制度よりもはるかに厄介な“人の壁”が立ちはだかっていたのです。
1. 現場が直面する運用課題:「面倒くさい加算」というレッテル
排尿自立支援加算を取得するには、
修了看護師を中心に泌尿器科医・セラピストを含むチーム体制を整え、
週1回のカンファレンスとラウンドを行う必要があります。
しかし、現場では強い反発がありました。
1-1. 現場の葛藤:「楽なバルーン」 vs 「面倒な自立支援」
排尿自立支援加算の目的は、バルーン抜去による尿路感染減少と医療費削減。
ところが病棟看護師にとって、バルーン留置は“最も楽な選択”でした。
抜去後には排尿日誌の記録、導尿、残尿測定、トイレ誘導などの手間が増えます。
立位・座位が不安定な患者の介助負担も大きく、現場にはこうした声が飛び交いました。
「まだ早い、順番がある」
「もう来ないで」
「かまわんとって」
認知症ケアと同じように、「加算を取る人=面倒くさい」といったレッテルが貼られ、
チームメンバーの心理的負担は小さくありませんでした。
1-2. 解決策:現場の負担軽減を最優先した「妥協案」
「病棟が動ける時間を聞いて、その時間に導尿を合わせました。」
チームは理想よりも現実を優先する運用を選択。
導尿回数は、排尿日誌を読み込み、患者の1日尿量や膀胱容量から必要最低限をチームが主導で設定。
さらに、
- 院内共有だった膀胱スキャナを増設し、貸し借りの手間を解消
- 介護力不足の病棟ではバルーン継続も許容
「やること」ではなく「できること」を軸に協働を築き、病棟との関係性は徐々に改善しました。
2. 驚きの成果:バルーン離脱率76%と抗生物質費の劇的減少
反発を超えて活動を継続した結果、チームは確かな成果を上げました。
2-1. 離脱率のV字回復と患者QOLの向上
- 離脱率:介入前約40% → 介入後76%へ改善
- 離脱患者の多くが自宅退院可能に
- FIM排尿項目スコア:大幅上昇
「排尿が自立すると、顔つきが変わるんです。“また自分でできた”という喜びがある。」
バルーンが抜けることで袋を下げて歩く必要がなくなり、リハビリ効率が爆発的に上昇。
患者の自信とADLが同時に回復していきました。
2-2. 病院経営への具体的な影響
- 抗生物質費の削減:「薬剤師さんから“抗生物質の購入がめちゃくちゃ減ってる”と言われました。」
- 包括制度下での利益構造改善:薬剤費が丸め込みのため、使用量が減る=利益増加。
結果、感染減少・費用削減・在宅復帰率向上という“三方良し”の成果を実現しました。
理学療法士が語る“訪問リハビリ1年目”の真実|知らないと損するリアル
👉 排尿ケアの現場でも欠かせない、理学療法士の視点からみたリハビリ連携と患者支援のリアルを紹介しています。
3. 加算の限界とチーム継続の意義(Q&A)

Q1.排尿自立支援加算とは?
入院患者に対し、排尿機能の評価と支援を行うことで算定できる加算。
修了看護師+泌尿器科医+リハ職のチームで、週1回×12週まで、1回200点が上限です。
参考:
・日本創傷・オストミー・失禁管理学会(JWOCN)🔗 日本創傷・オストミー・失禁管理学会|排尿自立支援加算および外来排尿自立指導料https://jwocm.org/topics/medical-fees/m-005/
Q2.「儲かる加算」なの?
直接的な収益は限定的。
ただし、尿路感染減少・抗生物質費削減・FIM利得率向上など、間接的に病院評価とコスト削減に寄与します。
Q3.目的は?
医療費削減に加え、患者の尊厳回復とQOL向上。
バルーン抜去で感染リスクを下げ、トイレ動作の再獲得を支援します。
Q4.チーム立ち上げに必要な条件は?
- 修了看護師(16時間研修)またはWOCナース
- 泌尿器科医(または6時間以上の研修修了医師)
- 理学・作業療法士などのセラピスト
- チームマニュアル作成と、全職員向け周知研修
Q5.なぜ「面倒くさい」と言われるの?
導尿・残尿測定・トイレ誘導だけでなく、排泄用具や福祉用具の提案も必要なため。
病棟側は「苦痛を伴う導尿」「早期誘導への不安」から反発が強く、
「なにそれ」「もう来ないで」と言われることもありました。
Q6.連携で一番大事なことは?
理想より現実を優先。
導尿時間を病棟の動ける時間帯に合わせ、**“できる範囲で進める柔軟さ”**が信頼構築の鍵です。
Q7.排尿ケアと排泄ケアの違いは?
- 排尿ケア:尿に関する支援(膀胱機能・残尿・導尿など)
- 排泄ケア:尿+便を含む包括的支援
排尿チームは“おしっこだけ”に特化します。
Q8.導入後の成果は?
- 離脱率:40%→76%
- 抗生物質費:大幅減
- FIM排尿項目:改善
- 在宅復帰率:上昇
“儲け”よりもデータで見える改善がチームの自信になりました。
Q9.ナイトバルーンとは?
夜間のみバルーン留置を行う方法。
自己導尿で眠れない患者や、膀胱機能が不安定な患者(男女問わず)に適応し、
QOLと睡眠の両立を目指します。
Q10.看護師のキャリアにメリットは?
- 多職種連携スキル
- 評価力・教育力
- 経営視点の獲得
直接的な昇給は少なくても、教育・ガイドライン整備など新たな役割拡張につながります。
4. キャリアチェンジを考える:高待遇とやりがいの葛藤
Aさんの勤務環境は──
夜勤なし・土日休み・定時帰宅・年収約500万円・年間休日120日。
しかし彼女は言います。
「正直、楽だけどあんまり楽しくないんです。」
かつて100万円かけて取得した認知症認定看護師資格も昇給ゼロ。
「資格マニアになっても稼げない」と気づいた今、Aさんは方向を変えました。
「排尿ケアチームの成果を外部へ発表したり、
院内で教育・ガイドライン整備の仕事を作れたらと思ってます。」
排尿ケアを通じて見つけたのは、
**“やりがいは外に探すものではなく、自分でつくるもの”**という答えでした。
5. 【新人看護師向け】排尿ケア介入の評価ポイント
新人が排尿ケアを始めるときに大切なのは、次の2点です。
✅ 排尿日誌によるパターン把握
- 1回量・回数・時間間隔・残尿の有無を記録
- 過剰な水分摂取の有無を確認
✅ 身体・認知機能の評価
- 身体機能:麻痺、座位/立位、トイレ動作、衣服操作
- 認知機能:訴求可否、ナースコール操作
これを基に、**「バルーン抜去後の自立に向けた介入計画」**を立てることが重要です。
💡さらに重要なのは――
膀胱は筋肉でできており、バルーンで伸縮しない期間が長いほど“廃用”を起こします。
睡眠薬や抗うつ薬は排尿障害や尿閉を引き起こすため、薬剤チェックも必須です。
💡排尿に関する一般向けの正しい情報は、以下の公的サイトも参考になります。
・日本泌尿器科学会|尿が漏れる・尿失禁がある
・国立長寿医療研究センター|高齢者に対する排尿管理・ケアの実際
結章:排尿ケアは“おしっこ”の話ではない
排尿自立支援加算をきっかけに誕生したチーム。
“経営対策”から始まった取り組みは、
今では**「人生の自立支援」**へと進化しました。
「排尿ケアって、“おしっこ”じゃなくて“生き方”のケアなんです。」
バルーンを抜くという小さな行為の裏には、
「自分で立つ」「トイレへ行く」という人間の尊厳があります。
儲かるかどうかよりも、
この活動が**患者の尊厳と病院の信頼を守る“投資”**であることを、
彼女たちは体現していました。
現場でのチームアプローチだけでなく、日常生活の中でできる排尿ケアも大切です。
看護師ぴぃ子さんによる
👉 セルフケア視点を学ぶならこちら
『困った【夜間頻尿】病院に行く前にできること』
では、夜間頻尿のセルフケアをやさしく解説しています。
免責事項
本記事は個人の経験・取材に基づいて再構成したものであり、
制度や条件は病院・自治体・時期によって異なります。
最新情報は厚生労働省公式サイトおよび日本排尿機能学会の資料をご確認ください。
編集後記
現場の抵抗を受けながらも、患者と病院のために挑戦した排尿ケアチーム。
制度ではなく“人”が変化を起こす現場の力を、この記事が少しでも伝えられたなら幸いです。