
「あの頃の私は、まるで燃え尽きたように、何もかも動けなくなってしまいました。」
もしあなたが今、仕事に対して強い疲労感や無力感を感じているなら、それは決して他人事ではありません。特に、専門性を高め、患者さんのために尽力してきた看護師の方であれば、その責任感の強さゆえに、限界まで頑張ってしまうこともあるでしょう。
今回は、特定行為を取得後、ICUでの勤務に悩み、休職という選択をしたものの、最終的に退職という道を選んだCさんの経験を基に、その葛藤と決断、そしてその後の生活について深く掘り下げていきます。
これは、決して珍しいケースではありません。
同じように悩む看護師の皆さんが、自身のキャリアや働き方を考える上で、少しでもヒントになれば幸いです。
特定行為取得後のICUでの葛藤:理想と現実のギャップ
「高いレベルの技能を持つ看護師でも自分の知らない領域,または状況におかれれば初心者のレベルに分類されることがありうる」と述べており,中堅看護師が,ICUという特殊な環境に異動した場合,期待される高度な看護実践能力を早期に獲得するための支援対策が課題となる。日本集中治療医学会看部会の「日本のICU看護体制の現状」調査(2011)では,約3分の1の施設が,ICUへの新卒看護師の配属はなく,異動による配属であった。

3分の2は新人が配属される現実…やばいですよね?Cさんは一般科からICUに移動になったそうですが、新人の時からICUで勤めている看護師との意見の不一致や壁で悩み苦しんだそうです。
看護師としてスキルアップを目指し、特定行為の研修を修了したCさん。一般病棟での経験を経て、「もっと患者さんの役に立ちたい」という強い思いがありました。しかし、いざICU(集中治療室)に配属されると、その現実は想像以上に過酷なものでした。高度な医療知識や技術が求められるのは当然のこと、常に緊張感が漂い、予期せぬ事態への迅速な対応が求められるICUの現場は、Cさんの心身を徐々に蝕んでいきました。
特定行為を取得したことで、これまで以上に責任のある業務を任されるようになりましたが、そのプレッシャーは想像以上でした。患者さんの状態は常に変化し、一つ間違えば命に関わるという状況に、精神的な負担は増すばかり。

特定行為を持っているのに、ICUの業務が合わない…
そんな葛藤を抱える中で、Cさんは徐々に疲弊していきました。
耐えきれず休職へ…その時の心境と決断(キーワード:休職、ICU)
連日の緊張と業務の重圧から、Cさんは心身のバランスを崩してしまいました。
「朝起きるのが辛い」
「仕事のことを考えると動悸がする」
といった症状が現れ、ついに休職という選択をせざるを得なくなります。
それは、自身の心と体を守るための、苦渋の決断でした。
厳しい経済情勢の中,職業生活等において強い不安,ストレス等を感じる労働者は,約 6 割に上っており,また,メンタルヘルス上の理由により連続 1 か月以上休業し,又は退職した労働者がいる事業場は7.6%となっている3) と,厚生労働省独立行政法人労働者健康福祉機構が報告している。
休職を決めるまでには、様々な葛藤があったことでしょう。
「自分が休んだら周りに迷惑がかかる」
「看護師として失格なのではないか」
といった自責の念に駆られたかもしれません。しかし、限界を超えて働き続けることは、患者さんにとっても、自分自身にとっても最善の選択ではありません。Cさんは、勇気を出して立ち止まることを選びました。
休職期間中の給与と失業保険の申請
休職期間中、気になるのは経済的な問題です。Cさんの場合、病院から給与が一部支給されなかったそうです。ハローワーク経由で振り込みがあり入金も遅れたそうです。一般的に、休職期間中の給与の扱いは会社によって異なります。無給となるケースも少なくありません。
一部の公立病院・自治体病院などでは、独自の規定で休職中も一定割合(例:8割)を支給するケースがあります(=給与保障制度)。

民間病院ではこの制度がないところも多く、その場合は「傷病手当金」のみが頼りになります。
そこで考えたのが、失業保険の申請です。退職という形になった場合、ハローワークを通じて失業保険を申請することができます。Cさんの場合、バーンアウトによる退職であり、診断書があれば「特定理由離職者」として扱われる可能性がありました。特定理由離職者として認められれば、自己都合退職よりも早く給付が開始されることがあります。また、失業保険の受給期間も、自己都合退職の場合よりも長くなることがあります。Cさんは300日間の失業保険を受給しているとのことです。
復帰か退職か…揺れる気持ちと最終的な決断
休職期間中、Cさんは自身のキャリアのあり方について深く考えました。ICUでの辛い経験は、Cさんの心に深い傷跡を残し、「またあの場所に戻るべきなのだろうか?」という疑問が頭から離れませんでした。さらに、「そもそも、自分は本当に常勤の看護師として働き続けたいのだろうか?」という、より根源的な問いにも向き合っていました。
ICUへの異動は、病院側の特定行為の加算を得るという目的が大きく影響していました。Cさん自身が特定行為の38分野を取得したのは、病棟に医師がいない場合に患者さんのために迅速な指示を出せるように、そして現場の業務効率化を図るためでした。しかし、その目的と、Cさんが本当にやりたいと考える看護との間に、大きな隔たりを感じるようになったのです。
特定行為とは
特定行為は、診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる次の38行為です。
引用)厚生労働省
また、部長との交渉の過程で、自身の意向が受け入れられなかったことも、Cさんの職場への不信感を募らせる大きな要因となりました。
熟慮の末、Cさんは病院に戻るのではなく、退職という道を選ぶことを決意します。「もう常勤の看護師として働くことはできない」という強い思いがあったからです。その代わりに、Cさんは精神科の応援ナースとして全国を回りたいという新たな目標を見つけました。これは、これまでの経験を活かしながら、自分らしい働き方を模索する、前向きな決断と言えるでしょう。
退職後の生活と失業保険の活用
退職後、Cさんは派遣のアルバイトをしながら、失業保険を受給する生活を送っています。
項目 | 内容 |
---|---|
1日あたりの労働時間 | 4時間未満に抑える必要あり。4時間以上働くと「就労」とみなされ、その日は失業保険が支給されません。 |
週あたりの労働時間 | 20時間未満。20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合は「雇用保険加入対象」となり、失業保険が打ち切られます。 |
1日あたりの収入 | 失業保険の基本手当日額の8割未満。8割を超えると、その日は失業保険が支給されません |
申告義務 | アルバイトをした日は必ず失業認定申告書で申告。虚偽申告は不正受給となり、支給停止や返還、2倍納付などの罰則があります |
休職期間中には、タイ、韓国、台湾、ベトナムといった海外旅行を経験しました。
失業保険をもらいながら海外旅行をしても、大抵のケースでは特に問題ありません。ただし、しっかりと求職活動をおこなって就職する意思を見せないと、受給する条件から外れて支給停止も有り得ます。
物価の安い国での生活は、失業保険を有効活用しながら、新たな経験を積む良い機会となります。特にベトナムは、Cさんにとって肌に合うと感じる場所だったようです。失業保険を利用して、海外で生活するという選択肢も視野に入れているのかもしれません。

今度退職した時はCさんのようなライフスタイルで過ごしてみるのもいいかもしれないですね!
看護師の休職とキャリア:早さんの経験から学ぶこと
Cさんの経験は、決して他人事ではありません。責任感が強く、真面目な看護師ほど、患者さんのために、職務のためにと、自身の限界を超えて頑張ってしまい、心身のバランスを崩してしまうことがあります。実際、新人看護師の中にも、早期に休職という選択をせざるを得ないケースは少なくありません。
私自身も、以前に看護職を退職した際、一時的には肩の荷が降りたような解放感を感じ、引越しの準備などに没頭していました。しかし、3ヶ月ほど経つと、徐々に焦りを感じ始めたのです。
看護職から離れた後の「何もしていない焦りと不安を抱え葛藤する」
まさに、
引用にもあるように、社会との繋がりを断たれたような感覚、そして「本当にこんな生活がしたかったのか?」という自問自答を繰り返す日々でした。その中で、社会との繋がりが、私にとってかけがえのないものであると再認識し、再び看護師として働きたいという気持ちが強く湧き上がってきたのです。
看護師としてのキャリアを考える上で、職場選びは非常に重要です。自分の適性や希望に合った環境で働くことが、長く充実したキャリアを築くための鍵となります。Cさんのように、一度立ち止まって自分を見つめ直す休職という期間は、決してキャリアの中断ではなく、むしろ自分にとって本当に大切なものを見つけるための貴重な時間となる可能性があります。その経験を通して、新たな道が開けることもあるのです。
結論
ICUでの葛藤、そして休職という選択を経て、最終的に退職という道を選んだCさん。
その決断は、決してネガティブなものではなく、自分自身の心と体、そして今後のキャリアを真剣に考えた結果と言えるでしょう。
「特定行為」
「休職」
「失業保険」
といったキーワードは、早さんの経験を語る上で重要な要素であり、同じように悩む看護師の方々にとって、参考になる情報が含まれていたはずです。
もし今、あなたが仕事に対して強いストレスや悩みを抱えているなら、一人で抱え込まずに、誰かに相談してみてください。
そして、必要であれば、勇気を出して立ち止まることも考えてみてください。Cさんのように、休職や退職という選択が、新たなスタートとなる可能性もあるのです。あなたの心が少しでも軽くなり、前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。